韓国で最も素敵なスポット

文化に触れる展示&複合文化施設 13選

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  • #カフェ
  • #展示
  • #博物館
mrnw(未来農園)
大邱 > 北区

@architechu
境界を越えて
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世の中には無数の境界が存在します。時としてその境界を越えることで手痛い傷を負うこともあります。特に「時代」「対人関係」「内面」という境界を越える時は、常にずきずきとした痛みを伴います。
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しかしながら、痛みがあってこそ私たちは前に進むことができるのです。
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時は2017年、この年の6月まで私にとって空気のような存在の人がいました。一緒にいるといつも楽しく、魔法のような人でした。生まれて初めて他人を100%信じることができるということを証明してくれるような存在。今の私はこんなことが言えるようになりましたが、昔の私は全くそうではありませんでした。愚かにも「空気」の大切さを分かっていなかったのです。それを「当たり前」だと思い、ずっと一緒にいるものだと信じ込んでいました。その人は6月を最期にあの世へと旅立ちました。救急室の前で必死で神様に祈りましたが、結果は残酷でした。当時は気づきませんでしたが、彼がいなくなって6ヶ月が過ぎてやっと痛みを感じ始めました。それまではひたすら現実を否定していたような気がします。それから彼の死を受け入れ、新たな境界を踏み出し生きていこうとした瞬間、その全てがぎこちなく思えてきました。自分でもあきれてしまうほど生きていることがつまらなくて仕方ありませんでした。「私たち、一生楽しいことをしよう!」と誓った私でしたが、そう容易いことではありませんでした。楽しさなど忘れて「弱者の側に立つ」という約束だけが義務として残り、それに押しつぶされそうになりました。彼の存在は当たり前ではありませんでした。自分にとってとても大切な存在でした。
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私はそうして他人と私、生と死の境界を行き来することで「本当に大切なものは失ってから気づく」ということを思い知りました。それ以来、世の中に「当たり前」という言葉はないと思うようになりました。
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2018年、私は自分のストーリーをたくさんの人に読んでもらいたいと思うようになりました。今になってみれば愚かなことだったと思うのですが、とある空間の一部分を写真に掲載しただけで、文章ではその場所について言及しなくても、自分の真意は伝わると思っていました。小説という枠組みの中で、まずその空間を想像してから実際にそこへ行って現実とその想像とを比べてみて欲しいと思っていました。しかし、その頃から時代は急変し始め、人々は文章を読まなくなっていました。思っていた以上に多くの人々が全く読まなくなっていたのです。それでも読んでくれる人たちに感謝の念を持ちつつ頑張っていたあの時、ふと自分の考えが間違っていたことに気づき始めました。「メディアの持つ長所を全く生かし切れていなかったのではないか」という疑問が、自ら引いていた境界線を越えさせてくれたのです。「視覚的イメージ」で全てを伝えつつも、文章をもう少し詳しく書かなければ、と。
そしてそれを読んでもらうためにその場所の利用情報を一番下に書き、写真の終わりには「メニュー」を追加するようにしました。これでようやく私は内面にある境界線を跳び越え自分ならではのコンテンツ形式を確立することができました。今になって振り返ってみると、自分なりの形式はかなり以前から頭の中にありました。しかし、その場所・空間にまつわるストーリーを読もうとする人たちにとって、実際にその場所に行く前に詳しく文章で説明してしまうことによって「その場所への期待感を台無しにしてしまうのではないか」と考え、自ら境界線を引き、文章を書くことに集中しようとしました。そのため、内面の境界線を越えてこのような形式を完成させるまでには、相当な苦悩を伴いました。
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このように自分の中にあった境界線を一度越えてからは、「境界を経験せずして、いかなるものも理解できない」ということを悟りました。「経験してこそ現実をありのままに表現できる」という言葉を胸に抱いて生きるようになりました。
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私たちは、必ずしもそうではありませんが、「時代」や「対人関係」「内面」の境界線を越える時、痛みを感じることがあります。そしてその苦痛から逃れる術(すべ)を模索し、やがてこれを克服し、前へと進むことができます。
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今回ご紹介する空間は、このような経験を通じてその境界が明確になった空間といえます。
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空間というものは一つの塊りではありません。いくつかの塊りが集まって、一つの群落のような集まりを作っているとも言えます。その塊りの間には必ず境界が存在します。延々と続く道といった視覚的要素で境界を作ったり、カラーコンクリートやねずみ色の石を床に敷きつめ、境界を表わしたりもします。しかし、誰もその境界を気にすることなく、境界の上を行き来しています。中には自然物と人工物でできた境界もあります。しかし、人々は気にも留めず、自然の空間と人工の空間を行き来し、その内と外を足の向くまま歩き、その空間での経験を積むことになります。
ここmrnwの展示スペースに足を踏み入れると、そこには建物に囲まれた双子のような楕円形をした庭園(中庭)があります。その双子の庭園は展示通路によって、二つの塊りの境界を行き来できるように設計されています。すべて見て回るだけでも1時間半くらいかかるほど、膨大な数の展示があります。
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そしてこの展示こそ、この空間を最も楽しめる方法であることは間違いありません。二つの塊りの境界を行ったり来たりしていると、いままでになかった新たな考え方、そして新たなシーンに遭遇するからに他なりません。
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人々がたくさん集まる中心的な空間は楕円形になっています。この楕円の持つ意味は、経験です。遠い昔、ルネサンス時代のヨーロッパの都市では「透視図法」と「哲学」が発達しており、空間を先験的*に構成していました。「完璧なシンメトリー(左右対称)」がその一つです。左側を見れば反対側に行かずとも、すべて見て経験したかのように感じられる設計を施しました。広場の形は「正方形」あるいは「完璧な円形」でした。こういった空間構成の中では、歩いていても全く同じような空間の経験をすることになります。
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その後、ロココ時代やバロック時代になると、空間の構成は変わり始めました。建物の左右に形の違う彫刻像を配置したり、広場は斜めの楕円形になりました。楕円形という形は歩き方によって、あるいは斜めの曲率によって、常に新たな景色を堪能できるという利点があります。
これと同じように、楕円形をしたmrnwの空間の中心スペースをなす中庭も「経験してみなければ分からない場所」という意味を内包しているように思えてきます。
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このように、空間は境界を行き来するという経験が重要であるということに気づかせてくれます。その経験は「境界を経験してこそ分かる」ということ、そして「これからどのように進んでいくのか」ということを問いかけてきます。この mrnw の空間は美的な観点からもとても優れています。幾何学的な形態が随所にみられ、同一素材が持つ長所である量感を最大限に引き出しています。柱も壁に対してまっすぐではなく、斜め45度に取り付けることで、さらに幾何学的なイメージを与えています。吹き抜けになっている中庭、松の庭園とメインスペースの間にある「アーケード」のコロネード(列柱)もまた空間にリズムを与え、幾何学的なマスターピースの中で視覚的な快楽を与えてくれます。木々の緑とコンクリートの暖かな雰囲気の色合いが相まって、まるでイラスト画の中にいるような気分にさせてくれます。韓国では珍しい空間であることは間違いありません。
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ここ mrnw を訪れて感じられる様々な経験をかしこまって理解する必要はありません。この空間が訪れる人に伝えようとするメッセージをありのままに受け入れ、訪れる前と訪れて様々な経験をした後の自らの境界を、ここに来て感じてみてはいかがでしょうか。
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ここは境界の意味を再認識させてくれるスペース・大邱(テグ)の#mrnwです。
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空間が見せてくれる場面 _ コーヒーを飲む場所、展示を観覧する場所、散歩を楽しむ庭園
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*先験的 _ 人間は経験に先立って認識の主観的形式を持つという理論(先験的観念論)から来た表現。対象に関係なく、それに対する認識が先天的な直観形式であることを明かすための認識論的態度をいいます。[Naver国語辞典]

mrnw(未来農園)
  • 所在地_テグ広域市プク区ホグクロ300-22
  • カフェ営業時間 _ 10:00~21:00
  • 展示運営時間 _ 12:00~19:00 [最終入場18:00、入場料 大人18,000ウォン、現地購入可能]
  • 展示_ <The border:境界の越え方>
  • 駐車場完備
  • #展示
サムスン美術館リウム
ソウル > 龍山区

@younggwangeee
サムスン美術館リウム、2023年初の展示
いま最も物議を醸している作品で知られるアーティスト「マウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)」の無料展示『WE』開催
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2011年、米ニューヨーク州にあるグッゲンハイム美術館で開かれた回顧展以来、最大規模となる今回の展示には、カテランが美術界にデビューした1990年代から現在に至るまで制作された作品38点が出品されています。

カテランの作品を見ると、素朴で瞬時に理解できるスーパーリアリズム(写実主義)の彫刻や絵画が主となっており、そのほとんどが美術史などからイメージを取り出し新たな作品に取り入れるアプロプリエーションの手法を駆使したり、馴染みのある大衆的な要素を巧みに組み込んでます。

今回の展示『WE』はカテランの作品名に由来するものですが、その作品に直接言及するというより 、もっと広い意味で、我々は誰なのか、どのようにして我々が形作られたのか、関係とは何か、という疑問を投げかける展示会となっています。

カテランの創作作業において、抑圧、不安、権威、宗教、愛、自分と家族、生と死、そして「我々」とは如何なるものなのかということを「考えること」で、カテランを巡る論議は活発となり、ある種の連帯感をももたらしてくれます。


2019年に行われた国際アートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」で壁にテープで貼り付けただけの世界一値段の高いバナナと呼ばれた作品『コメディアン』や、隕石がぶつかり倒れた教皇の姿を彫像にした作品『ラ・ノナ・オラ(9時)』、イタリア産の大理石・ビアンコカラーラで作られ遺体を彷彿とさせる九つの彫刻作品『All』のいずれも鑑賞することができます。

サムスン美術館リウム
  • ソウル特別市ヨンサン区イテウォンロ55ギル60-16
  • 『WE』 2023年1月31日~7月16日
  • 開館時間:10:00~18:00(月曜休館)
  • 予約はホームページで
  • 状況によっては同美術館での予約も可能
  • #複合文化施設
  • #カフェ
  • #レストラン
  • #展示
  • #博物館
コスモ(COSMO)40
仁川 > 西区

@gongmyeong(공명)
仁川で創りあげたデザイン性に優れた小宇宙

これぞ、まさにデザインの力。長きに渡り操業しつづけ、その生命力を失った化学工場の建物が、地元・仁川(インチョン)の文化拠点として生まれ変わりました。遠方はるばる訪れる人々がいるほどで、磁石のように引き寄せられる背景には文化的な創造を作り上げようという意志がありました。

その場所とは、仁川広域市西区(ソグ)にある複合文化施設・コスモ40のことです。元々工場だった建物が芸術という新たな衣に着替え、再スタートを切った一例で、他の追随を許さないほどユニークなこの施設ならではの空間、そして利用者にインスピレーションを与えるコンセプトが特徴の施設です。
さあ、これから仁川の過去と現在が結びついたデザイン的な小宇宙を探険してみましょう。

歴史
1970年代、およそ7.6haという広大な敷地にコスモ化学の工場が建てられました。この工場は2016年に韓国南東部の工業都市・蔚山(ウルサン)に移転することになり、そのうち6.6haを超える敷地に建てられていた工場が撤去されました。このほか残りの40棟の建物も撤去される計画でしたが、この空間の存在意義や文化的可能性を守るべく住民たちが立ち上がり、その強い意志のおかげで、今日のような結果として建物が残るようになりました。

環境にやさしい再生建築によって廃棄物の発生を最小限に抑えながら増築を行いました。2019年には仁川広域市建築賞・大賞をはじめ韓国建築文化大賞・優秀賞も受賞しました。

メインホール(1・2階)
高さ10メートルの二階建て構造の空間で、展示・イベント用のスペースとなっています。柱にはそれぞれ灯りが取り付けられ、スペース全体を四方に照らしています。その灯りは時間の経過とともに変化し、設置されている展示品を素晴らしく引き立てています。

ホイスト&コミュニティーホール(3・4階)
昔、工場だった3階は高さ14メートルの大きな空間でした。当時設置されていた機械設備が残っており、その構造の巨大さが実感できます。ここ3階はF&B(Food & Beverage)フロアでベーカリーカフェがあり、スペシャルティコーヒーやクラフトビールなどの様々なメニューが楽しめます。

また4階はさまざまな集いのスペースとなっています。最大100人収容可能なホールは、セミナー・カンファレンス・ネットワーキングなどの行事に最適なスペースです。いわば人々の文化的な活動のバックボーンになるスペースといえるでしょう。

結合の芸術
どんなスタイルにでも変身できる空きスペースと、どんなスペースにも変身させることができるセンスが結びついて、唯一無二のオリジナル空間が生まれました。aとbが出会い、互いに必要な要素を補い、その結果として新たなcというものが生まれたのです。

空き工場という画用紙を塗りつぶすのではなく、その大部分をそのまま残しておき、余白それ自体も一つの表現となるように、必要最小限のデザインを加えることでその空間ならではの良さを生かしました。

この巨大な文化工場に入ると、あちらこちらに点在しているデザイン性に優れた宝物を発見できますが、これこそ経験の接点と言うべきものでしょう。
過去のものに、現在のセンスをどのように融合させるのか、何を隠し、どこをどう露出させるのか、苦労を重ねた末に辿り着いた先にはバランスのとれた全体がありました。

空間に対する幅広い理解と開発力に拍手を送りたいと思います。コスモ40の影響力は今この瞬間にも巨大なインスピレーションの源泉となり、人々を通じて広がっていくことでしょう。

建築デザイン - @lifethings.in
施工 – BOV総合建設(イ・チャンビン)
内装デザイン - @proof_n_partners / @sml_seungmo_lim

コスモ(COSMO)40
  • 所在地:仁川広域市ソ区チャンゴゲロ231ボンギル9
  • 営業時間:平日10:00~20:00 /週末10:00~21:00
  • 電話:+82-32-575-2319
  • 駐車:3階のカフェラウンジ利用時に2.5時間無料、以後30分毎に1,000ウォン
  • #ショップ
ミルラク・ザ・マーケット(MILLAC THE MARKET)
釜山 > 水営区

@gongmyeong(공명)
陸地と海に挟まれた包容力あふれる文化広場

巨大な工場のような建物の薄暗い入口に足を踏み入れると、長く続く通路の中央に明るい光が見えてきます。人間の本能というものは、光を発する方へと向かっていくもの。入口は確かに陸地でしたが、その光源に導かれ歩いていくと、そこは海辺に面した広場。光と海に向かうその旅路には音楽・ファッション・グルメなど盛りだくさんの文化コンテンツがあるスポットが存在していました。

そう、ここが2022韓国空間文化大賞最優秀賞、「釜山らしい建築賞」大賞を受賞したミルラク・ザ・マーケットです。巨大な工場を彷彿とさせる外観のイメージやインダストリアルインテリア、そして広安里(クァンアンリ)の海辺を一望できる景色を満喫いただけます。陸地と海の間に位置し、文化や人々を引き寄せる開かれた広場がここ、ミルラク・ザ・マーケットです。

最新のトレンドが集まる市場
3棟の建物を繋いで作られた広い室内空間。その中央には一直線になった通路があり、動線は至ってシンプルです。この動線のおかげで、レストラン・カフェ、ファッション、フォトゾーンなどさまざまなお店や施設がありますが、利用しやすい環境となっています。 デパートやアウトレットではあまり目にする機会が少ない最新トレンドグッズが数多くあるほか、ネオンサインやほのかな間接照明でおしゃれに演出するディスプレイなどもみどころです。一見すると大勢の人々が行きかう市場と変わらないようにも見えますが、空間の企画やデザイン的な側面から見ると最新トレンドが反映されているおしゃれな市場であることが分かります。

メインホール
通路の真ん中にある光に導かれ歩いていくと、目の前にはメイン広場が現れます。メイン広場には人々が階段状になったベンチに座って、おいしいものを口にしながら、楽しく会話をしている光景が見受けられます。メインホールは圧倒的なスペース感と鉄筋の重厚感が目に焼き付く造りとなっており、柱と天井の骨組みをむき出しにてインダストリアルなイメージを強調しています。建築空間という懐の中でここならではの独特な風景を味わうことができるのが、ここメインホールです。

整然と交差する鉄筋構造物の向こうには広安里の海原が広がっています。まるで家の形をした巨大なスクリーンにリアルな映像が映し出されているような雰囲気です。映画館は席が予め指定されていますが、ここでは好きな場所に座ることができます。陽射しを浴びながらひと息つきたい方は下の方の席がおすすめ。音楽のステージなどさまざまなプログラムが行われ、釜山花火祭りが開かれる時は絶好の花火見物の名所になります。

陸地、そして海辺の風景が眺められるここ、ミルラク・ザ・マーケットは、教養豊かな一日をもたらす様々な文化があるところです。 素晴らしい空間を享有することは豊かな日常に繋がります。各エリアには建築賞や空間文化大賞などを受賞した建物が多数点在していますので、訪ね歩くのもおすすめです。さまざまな空間で感じたすばらしさを次に繋げていく、それが肝心です。自ら主体的に経験の幅を広げ、繋いでいくことで、自由を、そしてその結果からさまざまな楽しさを発見することでしょう。

ミルラク・ザ・マーケット(MILLAC THE MARKET)
  • @millac_the_market_official
  • 所在地:プサン広域市スヨン区ミンラクスビョンロ17ボンギル56
  • 営業時間:10:00~24:00
  • 電話:+82-51-752-5671
  • 駐車:専用駐車場利用可能
  • #複合文化施設
  • #カフェ
  • #展示
  • #博物館
バウジウム(BAUZIUM)彫刻美術館
江原道 > 高城郡

@architechu
水と風は案内人。
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元岩里(ウォンアムリ)、この地名は彫刻作品を展示する彫刻美術館の趣旨そのものといったような名称です。石や鉄から創られる彫刻は「岩が根本をなすところ」というここの地名にぴったりな気がします。この場所の近くまでやって来ると、岩山が美術館のある盆地を取り囲むように聳えていることがよく分かります。そして美術館の空間もまた、山脈と山脈の間にできた地形をそのまま活かし、周囲の岩と調和するよう、高さを低く抑え、そして広々としたスペースを誇り、重厚さが感じられます。
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一つの巨大な岩のような美術館。それもそのはず風が強い地理的条件を考慮し、コンクリートの壁が建物を取り囲んでいるからに他なりません。済州島(チェジュド)の石垣のように中心空間を取り囲むことにより、内側の通風をよくしたり、逆に風をシャットアウトすることで人々の活動に快適さをもたらします。それと同時に人の背丈より高い巨大な岩のおかげで、外から内側の空間はそう簡単には見えません。岩を積み上げコンクリートで固めた壁の道を辿って美術館の敷地に足を踏み入れると、そこには展示空間が現れます。真っ先に見えるのは頭上に、岩の壁の間から見える空。そしてその間を照らす光と彫刻作品が見えます。壁に囲まれた細長い平面の石畳のようになった床の通路を辿っていくだけで、展示を楽しめるように工夫した痕跡がよく分かります。美術館の建物の最初の空間に足を踏み入れ、彫刻を鑑賞していきます。やわらかな曲線が印象的な作品の数々。曲線はやわらかい線を作ることもありますが、むしろえぐり彫った曲線と曲線があいまって、膨張や爆発のような「躍動」を生み出すこともあります。このように純真無垢な空間において、流麗な曲線を形作る彫刻作品は、完成度の高い協奏曲のように美しいハーモニーを奏でます。しばらく最初の空間で楽しんでいると、頭の上に吹く風が感じられます。
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とはいえ、頭の上をすっと通り過ぎていく空気感ではなく、どこから吹いてきたのか分からないものの風が天井にそよそよと吹いている、そんな感じがします。
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奥の方には一面、浅く水を張った池のようになったスペースがあり、水面が風に揺れきらきらと光る様子が見受けられます。 通路をさらに進み、二つ目の空間に入ると、石と鉄でできた彫刻作品が展示されています。他の展示物と少し異なり、ここにある彫刻作品は曲線がまるで生きているかのように動くところです。風に吹かれて揺れる水面の動きが彫刻作品に反射し、いかにも躍動しているかのようです。躍動感ある彫刻に「水・風・光」という要素まで相まって、さらにダイナミックな動きを見せます。
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浅く水を張った池のようになったスペースはどのようになっているのか外に出て見てみたくなりました。ドアを開けて出てみると、自然の中に大きな石を並べた公園に接する形でコンクリート壁が囲む四角い池がステージのように広がり、水面がきらきらと輝いています。池はちょうど西に面しており、きょうの別れを惜しみ沈みゆく太陽に挨拶をしているかのような光景が広がっています。また池一面に湛える水は吹き寄せる風を暫しの間この場にとどめる働きもします。
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この浅い水を湛える池だけでなく印象的な光景が次々と現れるこの美術館ですが、まだその先にもさらにあります。コンクリートと岩で出来た通路をさらに進むと、別の展示スペースがあり、一番端にはカフェもあります。最後のカフェにたどり着いても、ここで終わり、という終止符のような感じではなく、空気の流れのようにずっと続いて、なんとなく目的地にたどり着くというような自然な流れの中の導きといった感じでしょうか。
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このスペースは一見、巨大なコンクリートの壁が訪れる人々の移動する方向を厳格に指示しているように見えますが、実際ここに来てみると、この美術館を覆う水や風が訪れる人々をやさしく案内してくれるという印象を受けます。ここでは、岩は周囲を守る「防人」の役割を、水や風は「ガイド」の役割を果たしているといえるでしょう。
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そして建築物は浅い器のように、周辺の流れに逆らいません。
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ここは「水と風は案内人、岩は防人」。岩の上の彫刻美術館「パウジウム彫刻美術館」です。

バウジウム(BAUZIUM)彫刻美術館
  • 所在地:カンウォン道コソン郡トソン面ウォナムオンチョン3ギル37
  • 開館時間:10:00~18:00(月曜休館)
  • 入場料:大人9,000ウォン(アメリカーノ1杯付き)
  • 駐車場完備
  • 空間の場面[プログラム] _ 展示、個人住宅、アートショップ、カフェ
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  • #観光スポット
SOUNDS漢南(ハンナム)
ソウル > 龍山区

@pbysj
人々のありとあらゆる嗜好を極め作り上げたスペース

「アーバンリゾート」を標榜するSOUNDS漢南は、出版から外食・ホテル・オフィス、そして小売に至るまで人々の嗜好が反映されるさまざまな分野で独創的な成果を上げてきたJOH & Companyが持ちうる、ありとあらゆるノウハウを注いで作り上げた総合空間芸術作品というべきスペースです。

「都会暮らしの中で幸せを感じさせてくれるもの」は何か、というところから始まったコンセプトがふんだんに感じられるスペースです。注目すべき点は、その幸せの対象。 SOUNDS漢南で働くスタッフのみならず、このスペースを利用する人々たちに至るまですべての人たちを対象にし、幸せに導いてくれるものを追求した点です。ありとあらゆる要素を取り入れようとしたその共感力の凄さに嫉妬すら覚えます。

SOUNDS漢南には、オフィスをはじめ、書店、カジュアルレストラン、ダイニングレストラン、バー、カフェ、フラワーショップ、メガネ店、イソップ(Aesop)、ダイソン、ギャラリー、オークション、そしてコンビニまであり、その全てがこの空間にバランスよく溶け込んでいます。ここまでくると「好みは人それぞれなので、ひとまず全て入れてみた」という表現が最もぴったりするかもしれません。

現在、JOH & Company はKAKAOに買収されその傘下となりましたが、「実体のある独創性は良い結果を生む」という好例を産業界に残し、都心の中で多岐に渡り、より多面的な嗜好を楽しめる基盤作りを行った点で評価できるかと思います。自らのメッセージを込め世の中に発信しようとする度、いつも思い出すのがここ、 SOUNDS漢南のコンセプトです。

SOUNDS漢南(ハンナム)
  • #複合文化施設
  • #カフェ
アユ・スペース(AYU SPACE)
京畿道 > 南楊州市

@eenomsiki
「素敵な空間、北漢江の眺め、コーヒー、そして...」

建築家チョ・ビョンス氏が手掛ける建築物で、開館前から話題になっている複合文化施設アユ・スペースが2022年11月 正式オープンしました。

中央を庭園のように取り囲むよう設計された円形構造の内部は、歩いているだけでも新鮮な気分になります。「パラムグァン(風の館)」と名付けられたこの空間はコーヒーを飲みながら談笑ができるメインスペースになっています。

奥にあるドアから外に出ると、北漢江(プカンガン)の流れに沿って道幅の広い散歩道やテラスがあり、すぐ隣に建てられた韓屋は今後様々な作品を展示するギャラリーとして利用される計画です。
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大都市近郊にあることから皮肉を込めて建物だけが豪奢な造りではないかと最初はコーヒーの味についてはあまり期待していませんでしたが、実際ここに来て飲んでみると、ここのブリューイングコーヒーは満足のいくクォリティーの一杯でした。

自家焙煎した豆を使用したさまざまな個性あふれるシングルオリジンコーヒーがあり、またコーヒー豆のラインナップを一般とPlus(+)、2Plus(++)に分け、好みに合わせてさまざまなセレクトができます。

一般とPlusはブリューイングマシンでいつ飲んでも変わらぬ味わいのコーヒーを抽出、2Plusはマシンではなくバリスタがハンドドリップで淹れてくれます。

導入のブリューイングマシンはすでに多くの店舗でその実力が認められているiRHEA社製のマシーンで、 コーヒーマシンで淹れたコーヒーの味わいもお墨付きです。

素敵な空間とギャラリー、北漢江の風景。
そしておいしいコーヒーがあるアユ・スペースは、あまり足を運ぶ機会が少ないソウル近郊のカフェですが、充分に満喫できるおすすめのスペースです。

アユ・スペース(AYU SPACE)
  • キョンギ道ナミャンジュ市ファド邑プカンガンロ1462ボンギル71
  • 平日10:00~21:00 /週末09:00~22:00
  • #展示
  • #博物館
水風石(スプンソク)ミュージアム
済州島 > 西帰浦市

@architechu
自然と遭遇した人間、水風石ミュージアム 第1編
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庾東龍(ユ・ドンニョン) 、その人は「伊丹潤」という名前で世間に知られている人物です。亡くなる直前まで韓国国籍を放棄せず貫いた在日韓国人の建築家です。「伊丹潤」という名前は日本で自らの会社を立ち上げるために急遽作った名前だと言います。名字は彼が韓国と日本を行き来した当時に利用していた空港の名前を借りたもので、「潤」は旧友である韓国を代表する作曲家「キル・オギュン(吉屋潤)」から潤の字をもらってつけたといわれています。
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「建築とは人生を設計する事である」という名言も彼は残しました。空間は必ず人に影響を及ぼすと主張した彼の言葉に自分も同感です。ゆえに空間を設計する際には、「人それぞれが尊いように」それに見合った空間を設計すべきだと考えています。
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このミュージアムの建物は彼が晩年に残した建築作品です。水風石ミュージアムは「ビオトピア(BIOTOPIA)」団地内にあり、ミュージアムと言っても芸術作品が展示されているわけではありません。その代わりに自然を構成する要素である「水・風・石」を展示しています。自然と空間が一つになる。その中から今回紹介する空間は「水博物館」です。
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ここを訪問するため1ヶ月以上前から予約しなければならず少々手こづりました。ピンクス・ビオトピア(PINX BIOTOPIA)のホームページで観覧予約するため、まるで大学生が履修登録をする時のように、決められた日に予約をしなければなりませんでした。一日にたった2回、十数人のみ、ここを訪れるチャンスが与えられます。なんとか予約することができ、予約した当日ここを訪れることができました。
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写真でだけ見ていた空間だったので「どんな空間なんだろうか?どんなインスピレーションを受ける場所なのだろうか?」と頭の中でずっと想像していただけだったのですが、この日ようやく実際に足を踏み入れることができました。
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重厚さが感じられるコンクリート、石垣は済州(チェジュ)のどこに行っても見られる石垣を「隠喩」しています。その重厚さが感じられる石垣の道を沿って歩いていくと、水博物館に到着します。そこには空が展示されていました。水面は空を映し出し、風に少し揺れています。その揺れが、むしろ全く揺れのない水面より、一層「水」らしく感じられ、静けさを感じさせます。あちらこちらで揺れる光、空に向かって空いた大きな穴から差し込む陽差し。ガイドが案内をしているようですが、自分の何も耳に入って来ません。眺めているだけでも胸が高まります。
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この空間では人が移動することによって、人と自然が一つになります。歩いて水面に近づくと、人は水面に映る空に遭遇します。建物の上の大きな穴から注ぐ無形の光を、目で、そして全身で楽しむことができます。
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彼が描いていた空間のストーリーがここに集約されていました。
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すべての方におすすめの場所ですが、特に建築学で空間を学んでいたり、さまざまな建築空間がお好きな方には是非訪れて頂きたい場所です。
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ここは水と人が繋がる空間#水風石ミュージアムです。

水風石(スプンソク)ミュージアム
  • 所在地_チェジュ特別自治道ソギィポ市アンドク面サンノクナムロ762ボンギル79ビオトピア
  • 駐車可能
  • 開館時間_1部13:30、2部15:30[冬期以外の時間はホームページをご参照ください]、土・日・祝日は休館
  • 予約_ waterwindstonemuseum.co.kr
  • 入場料 _ 大人25,000ウォン、お体の不自由な方12,500ウォン、済州道民12,500ウォン
  • #複合文化施設
  • #図書館
  • #展示
  • #博物館
議政府(ウィジョンブ)美術図書館
京畿道 > 議政府市

@hesaidthat
今日一日 、自分へのご褒美のような場所、議政府美術図書館

議政府美術図書館は京畿道(キョンギド)議政府市民楽洞(ミンラクドン)にある美術図書館です。議政府の街には頻繁に行くので、以前から妻と一度行ってみたいと思っていました。滞在時間は短いものでしたが、利用者にやさしく利用しやすい空間だったという余韻がいまだに残っています。

同美術図書館のメインキーワードは「連結」です。天井が高く、書架は低いので、広く開けた視界が印象的です。空間の開放感を最大限生かした造りがとても魅力的です。建物は地下1階の駐車場を含め3階まであります。

1階はアートグラウンドで、主に建築・絵画・工芸・写真など芸術に関する書籍があります。2階はゼネラルグラウンドで、子どもと大人が一緒に楽しめるよう作られたスペースとなっており、また3階のマルチグラウンドには体験プログラムやコミュニティーのための空間となっており、カフェもあります。近頃、キュレーションはどの分野でも重要なキーワードとなっていますが、ここ議政府美術図書館でも「司書コレクション」というキュレーションコーナーが大人気とのことです。

ここ議政府美術図書館を流れる音楽は空白という名の音楽です。自分がある空間について論評する際、音楽がないことがその空間にもっとも似合う音楽、と評したことがありましたが、まさにそれは議政府美術図書館にぴったりの言葉です。

議政府(ウィジョンブ)美術図書館
  • キョンギ道ウィジョンブ市ミンラクロ248
  • 平日10:00~21:00 /週末10:00~18:00 /月曜・祝日休館
  • 駐車可能
  • 子ども同伴可能、授乳室
  • ペット同伴不可
  • #展示
  • #博物館
思惟園(サユウォン)
慶尚北道 > 軍威郡

@_hyogeun_
「作り、そして作る」
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「家を作る」
家を作るという表現があります。「作る」とは材料を使ってご飯や洋服、家などを作ることを意味します。私たちにとって衣食住はなくてはならない存在であり、「作る」という言葉にはそれだけの多大な努力と情熱が込められています。
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家を作る時にはどんな建材を用い、どんな構造の家にすれば、暮らしやすくなるのか十分に検討することになります。まずは敷地選びですが、古の時代、平地は稲作に使われており、家は陽当たりのよい丘陵地に建てるしかありませんでした。故にその土地が与えるメッセージを読み取ることは何より大事であるのと同時に、非常に難しいことで、家を作るということは、より多くの情熱と努力を要する作業でした。
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その土地からのメッセージを読み取ることが大事だった訳は、先人たちにとって自然が対抗できる相手ではなかったからです。思い描く形態を実現するため、地面を削り、自然に手を加える諸外国とは異なり、韓国の建築は石があればこれを避け、小川があれば棟を分け別々に建物を建て、傾斜のきつい土地には家を建てませんでした。大地を利用するのではなく、大地を理解するといった姿勢で家作りを考え、自然を畏れ敬う対象として認識しつつ最大限、自然に順応する建築を行ってきました。したがって自然の中に溶け込む建物を作るということは、多大な努力と情熱が必要とされました。
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残念ながら韓国戦争(1950~1953年・休戦)を経て廃虚と化した韓国は、一刻も早い復興を遂げるため、家を作るというより、やみくもに建物を地面に刺してきたといえます。フォークでピザの生地を刺すように、計画もないまま建物を配置した結果、どこに行っても同じ構造や配置のマンションやアパート、商業ビルで埋め尽くされてしまいました。そういった理念のない建物が韓国の人々を苦しめていた時代に現れたのが、ここ、「思惟園」です。
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自らを振り返り、思いに耽るため、山中を巡る。そこで遭遇する空間はすべて自然に順応しています。建物の大小に関わらず、ここが唯一無二の場所であるかのように、とても違和感なく大地と一つになって人々を迎えてくれます。
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木が生えている位置や丘の段差を考慮した上で、そこにやって来た時、自然がどんな景色に見えるかを考えます。そんな配慮から生まれた建物と大きな窓は、大地と一つになった時、もっぱらその力を発揮します。
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思惟園もまさにそのような場所です。
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「名前を作る」。作られるものにはご飯や洋服、家などもありますが、名前もまた、作ることができる対象です。名前を作る・付けるという行為はその対象を呼ぶためのものであり、その対象を呼ぶという行為はその対象を理解するためであります。そしてその対象を理解するには、より一層の注意を注ぎ、真心や関心を持ってこそ、なし得るものです。
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人が子供に名前を付ける訳は、その名の通り人生を歩んでほしいと願う親心が込められているに他なりません。素晴らしい意味を持つ漢字を組み合わせ、さまざまな意味付けも行い、その読みにも気を遣います。そのように心を込めて名前を付けてもらった人々は他人と差別化された固有の「私」というアイデンティティーが確立されます。
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家もまた同じです。先人たちは家を建てると、家の名前に当たる「堂号(タンホ)」を決め、それを扁額に刻み、家屋に掲げました。名付けた堂号のような人生となるよう家の主人が願いを込めて作ったわけです。古の時代のこの堂号は、現在の団地にみられるような「A棟」「B棟」あるいは「101棟」「102棟」と呼ぶより、遥かに親しみが感じられ、品もあります。 堂号のある家は自分だけの特別な空間といったような雰囲気も感じさせてくれます。このような古の時代の風習がなくなり、情の欠片もなく、番号で人を呼ぶように家を呼ぶ今の現実が、住空間をますます眠りにつくだけの空間、あるいは富を蓄積する手段へと没落させたのかも知れません。
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ここ思惟園では建物や道それぞれに名前があります。致虚門、巣台、逍遥軒、風雪幾千年、思潭、瞑庭、内心楽園、瞻壇、悟塘/臥寺、別有洞天、チョハルキル、ピナリキル、タクッタグリ(キツツキ)キルなどです。さまざまな漢字やハングルの組み合わせで作られた名前はそれぞれ固有の意味を持つ建物となり、訪れる人々を迎えてくれます。地図や立て札、建物に掲げられた扁額に刻まれた名前を読み、家の主人がどんな思いでこの建物を建てたのか思いを馳せるというのが、ここ思惟園にやって来た人々の暗黙の約束となっているます。
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扁額に書かれた名前の意味に思いを馳せ、それぞれの建物でさまざまな経験をする、ここ思惟園を訪れる「思惟人」たち。園内を巡っていると、都会の何の理念もない建物の圧迫から逃れられ、自らの内面を振り返ることができます。自分は何者なのか、自分はどこへ向かうべきなのか。忙しない現代社会に押しつぶされ、日頃できなかった自らを振り返る省察のひと時がここでは可能です。
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作られた家と名付けられた名前が一つとなり、その地に落ち着く時、そのシナジーは想像を絶する大きな力をもたらします。
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それがここ、思惟園です。
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#いい_経験を_与える_空間

思惟園(サユウォン)
  • キョンサンブク道クヌィ郡プギェ面チサンヒョリョンロ1150
  • 要事前予約
  • #図書館
清雲(チョンウン)文学図書館
ソウル > 鐘路区

@architechu
季節が感じられる伝統家屋・韓屋

韓国の伝統家屋・韓屋は自然と共存する空間です。せせらぎや風の音、風鈴、そして鳥の鳴き声がどこからともなく聴こえてくる空間です。静かにページをめくりながら読書の秋を楽しみたい、そんな方が「紅葉」と「読書」が楽しめるこの韓屋へやって来れば「秋を十分満喫した」と感じること間違いなしです。
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人々は今や自然の音を聴くことができなくなってしまいました。
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2018年現在、都市部に住む韓国の人口は91.8%に達しています。そんな状況の中、人々には自然の音が聴こえているのでしょうか。人々のほとんどが都市に住み、住空間は車道に面しています。窓を開けると風が吹いてきますが、同時に車や工事現場の音もともに聴こえてきます。ここでちょっと古の時代を生きた先人たちの暮らしぶりを振り返ってみましょう。
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もう韓屋には住むことができないのでしょうか。
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いいえ、実際には可能です。現代の建築技術と明らかに隔たりがあるように感じられるかもしれませんが、少しだけ補完すれば十分に住むことは可能です。韓屋は人々に思われている以上に建築空間として環境に順応できる「建築様式」だからです。特に「オンドル(床暖房)」は冬に、板の間と軒は夏に備えた建物の構造です。この他にも韓屋は韓国の四季に備えて様々な仕掛けが隠れており、技術の粋を集めたような建築物です。それと同時に現代の空間より風情のある空間でもあります。
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韓屋は暑い夏になると格子窓をすべて上に持ち上げます。軒は影を作り、前後の窓が開けられた空間には外気が吹き込み、風の道ができます。そして窓の外からは今のように都会の喧騒は聴こえてきません。広々とした庭・マダンに差し込む陽差しとともに自然の音も聴こえてきます。このように立地するその土地と密接な関係にあるのが韓屋の特徴です。朝鮮時代の支配階級である両班(ヤンバン)が住む韓屋が村のどんな土地に建てられていたかを見てみると、素晴らしい造りの韓屋ほど、高台となっている丘に位置していました。その理由はその当時の社会的背景からも解釈できますが、現代の状況に照らし合わせてみると、それは「ペントハウス」の概念に似ています。高い場所、高い空間、条件の良い空間。それが古の時代、先人たちにとっては丘の中腹だったのです。少しでも自然に近いところ、そんな場所にあることから周囲は閑散としています。森に囲まれ、人々が行き交う市(いち)の立つ場所の喧騒から離れ、自然の音により近くから聴こえてくるそんな場所にあります。(慶尚北道安東にある)河回村(ハフェマウル)や良洞村(ヤンドンマウル)に行ったことがある方ならお分かりいただけるかと思います。
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さて、今回ご紹介する空間はすがすがしい白い雲がかかる丘、仁王山(イヌァンサン)山麓にあります。韓国を代表する詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)を称え建てられた尹東柱文学館を横目に丘を上っていくと、森に囲まれた韓屋が見えてきます。今日行く目的地はそこから階段を下りて行ったところにあります。 丘の高台から凹んだような地形に下りて行くと、これまでより安定感があり、何か守られているような感じがします。そして下まで下って地に足をつけたその瞬間、周囲は自然のみとなり、いかに人間の存在が小さいものかということに気づかされます。木々が風に揺れる音が聴こえてきます。素晴らしい造りの韓屋は軒先を高く反る軒反り屋根となっており、威風堂々たる姿で訪れる人々を出迎えます。
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韓屋には靴を脱いで上がります。涼しげに開く戸の間からは肌をくすぐるそよ風が吹いてきます。目に見えるのは木々と陽光、耳に聴こえてくるのは自然の音しかありません。どこからか水が流れ落ちる音がしてきます。思わずその清々しい音に導かれ、聴こえてくる方へ足を運びます。この場所の最も裏手には小さな離れがあります。4人ぐらいでテーブルを囲むのにちょうどよさそうな空間、その建物の窓越しには水が流れ落ちている風景が広がります。ちょっと時間が空いた時に読んでいる本をおもむろにカバンの中から取り出してみます。なんとなく、ここにいると読書が進みそうな気がします。
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思わず夢中になって読んでいたら、順番を待っている人たちがいるとのことで、外に出ざるを得なくなりました。たったの数分のことでしたが、とても爽やかな時間でした。上を見上げると風が吹き風鈴が鳴り響く様子が窺えます。その時、強い陽差しが目に入り思わず視線を下にむけると、そこには韓屋の地下がありました。
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どんなところか気になり下りていくと、そこには韓屋とは相反するモダンな空間があり、そのすぐそばには地上にある伝統的な造りの韓屋との垂直的なバランスを考慮した「中庭」と「竹林がある庭」があります。そう、この空間こそが韓国文学を専門とする図書館です。小さい空間ではありますが、様々な雰囲気漂うこの図書館では思い思いの場所で人々が読書に勤しんでいます。窓越しに広がる開放感あふれる庭からは竹が風に揺れる音が聴こえてきます。
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ここにいると常に自然の音が聴こえてきます。
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ここにいると人々は自然の音を聴くことができます。
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この場所はソウル特別市鐘路区仁王山にある#清雲文学図書館です。

清雲(チョンウン)文学図書館
  • 所在地_ソウル特別市チョンノ区チャハムンロ36ギル40
  • 駐車可能(駐車スペースが少ないためご利用できないこともあります)
  • 開館時間_ 10:00~22:00(月曜休館)
  • #自然
  • #図書館
陽川(ヤンチョン)公園・チェクシムト(BOOK SHELTER)
ソウル > 陽川区

@spot_editor
天高く馬肥ゆる秋、自然に囲まれ建築美が感じられる図書館で読書をしながら憩いのひと時を満喫

2020年11月に開館した陽川公園・チェクシムト(BOOK SHELTER)は、2021韓国公共建築賞・大賞や2021ソウル市建築賞・優秀賞を受賞するなどその建築の美しさで有名な場所です。

芝生エリアとの境に沿って建てられた流麗な曲線の外観が印象的なこの建物。一歩、中に足を踏み入れると、そこには自然・憩い・人が調和する素敵な空間が広がっています。
細長く作られた窓やフォールディングドアの向こうには、青々と生い茂る緑陰、色とりどりに染まる紅葉、木の枝に白く降り積もるロマンチックな雪景色など四季折々の美しい自然を眺められ、本を読みながら憩いのひと時を過ごせる場所です。
周りには公園や遊び場があり、椅子に座って外を眺めるだけでも心が洗われる気がします。

読書にあまり興味がない方も、美しい建築とその建築物が作り出す空間に導かれ、知らぬ間にページをめくりたくなる、これもまた公共建築が本来持つ機能のひとつではないでしょうか。

陽川(ヤンチョン)公園・チェクシムト(BOOK SHELTER)
  • add. ソウル特別市ヤンチョン区モクトンドンロ111
  • insta. @ycparkfriends
  • 公道上にある公営駐車場を利用
  • #展示
  • #博物館
ソンウン(SONGEUN)
ソウル > 江南区

@architechu
都市に隠れた松の木

「島山大路(トサンデロ)に素晴らしい建築はない。」(インタビューから抜粋)

「島山大路の様々な建物をチェックしたが、インスピレーションを感じるような建物はなかった。」
これはジャック・ヘルツォーク(Jacques Herzog)(71歳)とピエール・ド・ムーロン(Pierre de Meuron)(71歳)がソンウンアートスペース新社屋の起工式で記者の取材に応じて語った内容の一部です。ふたりは世界的に有名な建築家で、幼稚園からの幼なじみです。インタビュー中、毅然とした態度を貫いた彼らが島山大路周辺のエリアに必要なインスピレーションを感じる空間について次のように述べています。

その通りです。島山大路は商業的な特性が過度に密集したエリアです。新沙(シンサ)、狎鴎亭(アックジョン)などがあるこの通りの界隈は商業的な目的が強い地域です。ご存知の通り、非常に地価が高く、ブランド店が軒を連ねている都市組織です。とはいえ、公共用の非商業的なスペースは全くないでしょうか。現実にここは高層ビルが多いエリアです。このエリアに高層ビルを建てる際には、敷地の一部を必ず公開空地にすることが法律で定められています。さらに建物の延べ面積が1万平方メートルを超える場合、建築費用の一部は芸術作品の購入に充てなければならない法律もあります。この法規だけで考えると、島山大路界隈や江南、狎鴎亭には公開空地が多いと思われがちですが、我々が知る限り、そのような空間はありません。何か所か僅かならが公開空地として使われる場所はありますが、これを批判的な観点から述べると「実効性」ある設計プランとは言えません。ほとんどの高層ビルがその公開空地を建物の通路として使ったり、建物の利用者が使いやすいように設計されているため、これらエリアが実際に効果的な公共空間となっているかは、はなはだ疑問です。以前、(ソウル中心部の景福宮西側にある)西村(ソチョン)の「ブリックウェル」について紹介した内容の一部がこれに当てはまります。

都市は様々な経験を提供しなければなりません。

道を歩いていて出くわす商業空間であれ、偶然見かけた公共空間であれ、イベントのようなものが絶えず活発に行われている都市こそが、結果として楽しい都市となる確率が高くなります。そして最も重要なことはプログラムの多様性にあり、その次に「無課金」の経験であることが重要です。都市で何もかもお金を払わなければならないとしたら、本当にそれが楽しいと感じられるのでしょうか。もちろん、お金がある人々は楽しいかもしれません。金銭的に余裕のない人たちは都市で働き、税金を納めていながらも、その税金で作ったブロック舗装された歩道の上を歩くその瞬間さえ、都市の恩恵を受けることができません。そういった意味で前述の法律は必ずなくてはならないものであり、明確な実効性を伴うべきだと思います。

だとしたら、そんな理想的な空間は存在するのでしょうか。以前紹介した西村の「ブリックウェル」や、今回のソンウンアートスペースの新社屋がそれに当てはまります。

「公開空地」はその敷地の第一歩から強調されています。この公開空地は裏手にある建物につながっています。公開空地は美しい造景のスペースとなっており、ここを通る人々に快適さをもたらします。独特な形をしたテラス型の階段が、建物1階のスパイラル階段に沿って設けられています。薄いガラスで隔てられていますが、外から見ると1階全体が外部の人々にも開放されているかのような建物のように感じられます。その1階にはインフォメーションデスク以外には何もありません。そして地下1階・地上2階と3階のギャラリーではソンウン文化財団が発掘した新進気鋭アーティストの展示や、著名なアーティストが参加して作り上げたこの建物に関連した展示が行われています。もちろん、展示スペースの入口にはH&dM が同建物を設計した経緯やそのコンセプトを知ることができる展示があり、さらに展示スペースに入っていくと、彼らのこれまでの作品も展示されています。
今回の展示は全体的にこの新社屋をテーマに構成されていましたが、むしろこれら展示より、芸術作品を彷彿とさせるこの建物自体の方が断然、メインの展示作品になるべきと自分は確信しました。なぜならば、この建物の存在こそが自分を一日中この界隈に足を引き留めた張本人だったからです。これもまた都市が与えてくれる恩恵なのです。自分にある種のイベント的な活動を引き起こさせてくれたからに他なりません。建物は都市の大型芸術作品のごとく天を突くように聳え立ち、また建物内部でのさまざまな体験も商業的な要素より、芸術性や公共性が格段に際立って感じられます。

もしかするとこの建物は「ソンウン」という名前の通り、本当に「隠れた松」、ソンウン(松隠)かも知れません。コンクリートの外壁に松の木目模様を余すところなく施し、建物全体を覆っていることもありますが、自分が感じたのはその裏に隠れた、より圧倒的なイメージです。

想像してみて下さい。もし都市の真ん中に想像を絶する大きな松の木があったとしたら。高層ビルと引けを取らないその松の木は、この都市で最も愛される場所になるのではないでしょうか。その昔、様々な神話の中で巨大な木のある空間は中心的な役割を果たしたといいます。この建物も古の時代の巨大な木と同じようにすべての人々に開かれ芸術的な美しさ溢れるそんな場所になるのではないかと思います。そう想像するだけで、この建物がもたらす魂の響きが自分の頭の中で山びこのように響いてくるような感じがします。

そしてついに、彼らの主張通り、ようやくソウルにも素晴らしい空間ができたと言えるでしょう。
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なかなかお目にかかることのない巨匠たちですが、韓国で二人の作品について論じることができることに大いに感謝したいと思います。
このように自分が個人的に親近感を抱いていることを抜きにして、中立的な立場でこの空間を捉えてみても、これから100年はどのように変化し続けるか見届けてみたい建物であることは間違いありません。
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彼らが思い願ったように、島山大路の文化芸術ハブになることを願いつつこの空間を紹介したいと思います。
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ここは島山大路の隠れた松#ソンウンアートスペースの新社屋です。

ソンウン(SONGEUN)
  • 入場料 無料[NAVER予約]
  • 所在地_ソウル特別市カンナム区トサンデロ441
  • 駐車場完備、駐車場は必ずご覧ください。[09番写真]
  • 設計_ Herzog & De Meuron